第112章 彼女を救った人

鷹司京介が下流へ駆けつけた時、クレーンがゆっくりと、江の底に沈んでいた黒いセダンを吊り上げていた。車体は無残に歪み、窓ガラスは粉々だ。割れ目という割れ目から濁った水が滝のように噴き出している。

鷹司京介は我を忘れて飛びつき、変形したドアを力任せにこじ開けた。心臓を、見えない手で握り潰されるような感覚。

運転席は――空だった。

「人は?」

緊張で声が震える。充血した目で救助員を射抜き、食い下がった。

「彼女はどこだ。……どこにいる!」

欲しいのは、こんな鉄くずじゃない。

救助隊長が青い顔で答える。

「鷹司社長……車内は隅々まで確認しましたが、発見できませんでした。流れが速すぎま...

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