第51章 助からなければよかった

鷹司恭一は振り返って彼女を見た。

――まだ、用意が足りない気がする。

「もう一回考えてみて。足りないものがあるなら、まとめて用意させるから」

さっき看護師に聞いた。来るのは木下香織と、その友人が一人だけ。家族は、今日まで一度も顔を出していないという。

社内の社員名簿には、確かに彼女の両親の名前があった。

なのに、こんな重傷なのに……誰も来ない。

海で見た時から、北条千雪には生きようという執着が薄いと感じていた。あれほど傷を負っても、何でもない顔をしていた。

今の彼女は、なおさらだ。砂の山みたいに脆くて、風が吹けばさらわれる。手を伸ばして掴んでいないと、いつ消えてもおかしくない。...

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