第84章 また幻覚が見えているのか

鷹司京介の背中が病室のドアの向こうへ完全に消えた瞬間、ようやく死んだような静けさが戻ってきた。

看護師が処置用のトレーを抱えて入ってくるなり、北条千雪の腕に巻かれたガーゼが血で真っ赤に染まっているのを見て、顔色をさっと失った。慌てて医師を呼ぶ。

駆けつけた医師が血に濡れたガーゼをめくると、眉がきつく寄った。裂けた傷口は赤い肉がめくれ上がり、じわじわ滲んだ血が腕を伝って落ちていく。

普通なら泣き叫んでいてもおかしくない。けれど千雪は、額に細かな汗が浮かぶだけで、表情はほとんど動かなかった。

ナースステーションのスタッフが思わず目を潤ませる。……本当に、痛くないの?

全身に数え切れない...

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