第九十七章

ウェイクがバルコニーに足を踏み入れる。振り返らなくても、その相変わらず揺るぎない気配を感じ取ることができる。彼はただ私の背後に立ち、静かに待っている。世界の重圧がのしかかり、胸が締め付けられ、心臓が鉛のように重い。こぼれ落ちそうになる涙を必死に飲み込もうとするが、それは無駄な抵抗だった。

「フィービー」

眼下に広がる喧騒を切り裂くような低い声で、ウェイクが優しく名を呼ぶ。「一人で背負い込む必要はないんだ」

私はバルコニーの手すりを強く握りしめた。指の関節が白くなるほどの力だ。震えが体を走り抜ける。返事はできない。言えない言葉の数々が喉につかえてしまっているからだ。だが、彼は忍耐強い。私が...

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