第4章

 英男の表情が気まずそうに歪んだ。

 ちょうどその時、英男の背後から佐代子が姿を現した。彼女は目元を赤く腫らし、声を詰まらせた。

「お姉ちゃん、英男さんを誤解しないで。彼、本当に心配していたのよ……」

 彼女は英男の袖をきつく握りしめ、まるで支えを求めているかのようだった。

「山火事がひどすぎて、ヘリコプターがすぐに飛べなかったの」彼女の声は次第に小さくなっていった。

「救助隊はずっと待機して、風向きが変わるのを待ってて……」

 佐代子は自責の念に駆られているようで、涙がその瞳に浮かんでいた。

「私が臆病すぎたせいだわ……あの時、私が残ると言い張っていれば、お姉ちゃんがこんな目に……」

 英男はすぐさま彼女を支えた。

「よせ、君のせいじゃない」

 私は彼女の演技を冷ややかな目で見つめていた。

 前世でもこの手口は数え切れないほど見てきた。いつもこうだ。まず弱音を吐き、責任を完全に放棄し、最後には全員の同情を引く。

「つまり」私は冷たく彼女の言葉を遮った。

「救助隊に『連絡』するのに二時間もかかったってこと?」

 私の鋭い視線が英男を射抜いた。

「それとも、最初から戻る気なんてなかったの?」

 英男の目に一瞬、動揺が走った。

 佐代子が慌てて付け加えた。

「違うの、お姉ちゃん、私たち本当に――」

「もういい」私は冷ややかに言い放った。

「そんな話、聞きたくない」

 その時、一台の高級車がキャンプ場の入り口で急ブレーキをかけ、ドアが開くと、両親が慌ただしく降りてきた。

 母、美恵子の視線は真っ先に佐代子へと注がれた。

「佐代子!」母はほとんど走るように近づき、佐代子をしっかりと抱きしめた。

「無事でよかった! お父さんも私も、本当に心配したのよ!」

 父、建邦も進み出て、佐代子に怪我がないか気遣うように確認した。

「どこか痛いところはないか?」

 佐代子は首を横に振り、涙をこぼした。

「私、平気よ……」

 それからようやく、母は私に「気づき」、私の全身の傷や固定されたふくらはぎへと視線を走らせた。

 彼女は眉をひそめた。

「かすみ、どうしてそんなに怪我をしたの?」

 その冷淡な口調は、まるで私の不注意を責めているかのようだった。

 私はそこに立ち尽くし、絶望的な思いでこの光景を見つめていた。

 記憶が潮のように押し寄せてくる――

 佐代子の実の両親は、土砂崩れから私の両親を救うために命を落とした。幼い佐代子はすべてを失い、建邦と美恵子は罪悪感から彼女を引き取った。

 それ以来、すべての愛情、関心、補償は佐代子に注がれてきた。

 一方で、実の娘である私は完全に無視された。

 誕生日パーティーは佐代子のために開かれ、家族旅行に連れて行くのも佐代子、会社の資源も佐代子に優先して与えられた。さらには英男でさえ、本来は彼女のものになるはずだったのだ。

 私はただの余分な存在でしかなかった。

「建邦さん、美恵子さん」綾人が突然、感情を交えずに口を開いた。

「かすみさんの足は骨折しています。すぐに病院へ搬送する必要があります」

 両親は顔を見合わせ、頷こうとしたその時、佐代子が突然口を開いた。

「待って……」彼女は唇を噛み、言いにくそうな様子を見せた。

「お姉ちゃん、あのヘリコプターのことだけど……」

 英男が眉をひそめた。

「佐代子、何を言いたいんだ?」

 佐代子は「おそるおそる」言った。

「整備士さんから聞いたんだけど、ヘリの燃料パイプが……人為的に壊されていたみたいで……」

 彼女の視線が私に落ち、その目には「心配」の色が浮かんだ。

「お姉ちゃん、最近誰かの恨みを買うようなこと、しなかった?」

 その裏の意味はあきらかだった。私が敵を作りすぎたせいで、今回の事故が起きたのだと。

 父の顔色がたちまち険しくなった。

「かすみ、お前は会社で一体何をしたんだ?」

 母も責めるように言った。

「あなたって本当に未熟ね! いつも後先考えずに行動するんだから!」

 私は信じられない思いで彼らを見た。

 英男は少し沈黙した後、同じように眉をひそめた。

「かすみ、前回のプロジェクトのせいじゃないのか……焦るなと忠告したはずだ」

 心臓が鈍い刃物でゆっくりと切り裂かれるような感覚に襲われた。

 痛いのに、血は流れない。

 綾人の顔色が険しくなり、冷ややかな声で言った。

「皆さん、証拠もないのに勝手な推測をしないでいただきたい」

 だが、誰も彼を気にも留めなかった。

 私は深呼吸をして、突然笑みを浮かべた。

「敵を作りすぎた? それはどうかしら」

 私の声はとても穏やかだった。

 私は意味深な視線を佐代子に向けた。

「でも、誰かの『悪気のない過ち』が、致命傷になることはあるわね」

 佐代子の顔面が瞬く間に蒼白になり、体がかすかに震えだした。

 英男がすぐさま彼女を庇うように前に出た。

「かすみ、どういう意味だ?」

 私は落ち着き払って答えた。

「徹底的に調べるなら、最後まで調べ尽くせばいいってこと」

 私は消防隊長に向き直った。

「隊長、離陸前のヘリポートに監視カメラはありますか?」

 隊長は頷いた。

「ああ、整備エリアにはすべて二十四時間の監視カメラが設置されている」

「なら、離陸する三十分前の映像を出してください」私は冷笑した。

「一体誰が『うっかり』ヘリコプターに触れたのか、見てみたいの」

 佐代子は顔面蒼白になり、唇を震わせた。

「お、お姉ちゃん、あなた……」

 英男は異変を感じ取り、視線を佐代子と私の間で泳がせた。

 前世の記憶が鮮明に蘇る――

 あの流産の後、私は密かにヘリコプター事故を調査した。監視カメラの映像には、離陸前にヘリのそばに寄りかかる佐代子が映っていた。英男と私が二人きりになることに不満を抱いた彼女は、感情的に機体を何度も蹴りつけていた。

 ハイヒールのヒールが燃料パイプの外部コネクタを突き破ったのだ。

 異常に気づいた彼女は慌ててその場を離れたが、何事もなかったかのように装っていた。

 佐代子が慌てて口を開いた。

「い、いいわ! きっと事故よ! お姉ちゃん、もう追及するのはやめましょう……」

 彼女は英男の方を向き、ぽろぽろと涙をこぼした。

「英男さん、私、本当にわざとじゃないの……あの日、私ただ……」

 彼女は言いかけて突然口をつぐんだ。口を滑らせたことに気づいたようだった。

 英男の顔色が変わったが、それでも無意識に佐代子を庇った。

「かすみ、もういいだろう。佐代子も事故だと言っているんだ、これ以上追及するのはやめろ」

 私は彼らを見つめ、口元に皮肉な笑みを浮かべた。

 英男が急に話題を変えた。

「君の足、そんなにひどいなら、早く病院に行った方がいい」

 彼は私を支えようと手を伸ばした。

「俺が送る――」

「結構よ」私は彼の手を避け、綾人の方を向いた。

「綾人さん、病院まで送ってくださる?」

 綾人がすぐに進み出て、慎重に私を支えた。

「もちろんです」

 英男は青筋を立てて阻止しようとした――

「英男さん!」佐代子が突然胸を押さえ、青ざめた。

「私……ちょっと気分が……」

 全員の注意が瞬時に彼女へと向かった。

 母がすぐに彼女を支えた。

「佐代子、どうしたの? 怖かったのね?」

 父が焦ったように言った。

「早く! 病院へ!」

 英男も私にかまう余裕をなくし、慌てて佐代子の世話を焼き始めた。

 私はその光景を見つめていたが、心にはもう何の感情も湧いてこなかった。

 綾人に支えられ、車に乗り込んだ。

 バックミラー越しに、建邦、美恵子、そして英男が佐代子を取り囲み、心配そうに世話を焼いているのが見えた。

 誰も私の怪我を気にしていない。

 私が火の海で死にかけたことなど、誰も気にも留めていない。

 私は目を閉じ、心の中に突然、骨の髄まで凍りつくような冷たさが込み上げてくるのを感じた。

 そうか。どの人生でも、彼らの心の中では、私は佐代子より重要ではなかったのだ。

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