第109章

H市私立病院、最上階のVIP診察室。

鼻を突く消毒液の匂いが、空気にべったりと張りついている。

瀬戸先生は白衣姿で、広いデスクの向こうに腰を下ろしていた。手元には栗山加奈の検査結果。銀白の髪は一本の乱れもなく撫でつけられている。

脇には氷上颯。眉間に深い皺を刻み、黙って立っていた。もう一人、渡辺秋沢は両手をポケットに突っ込み、露骨に苛立った顔で壁にもたれている。

瀬戸先生は書類を閉じ、まぶたを持ち上げた。

その視線が、目の前の二人の男を遠慮なく削るように撫でていく。

「栗山さんの心臓は、軽い不整脈があるだけです。器質的な異常は見当たりません」

「危篤には程遠い」

氷上颯は言葉を...

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