第110章

彼女は、このタイミングで氷上颯に相葉栞里への未練を抱かせるわけにはいかなかった。

栗山加奈は勢いよく掛け布団をはねのけ、裸足のままベッドから飛び降りる。駆け寄るなり、相葉栞里の腕をがしっと掴んだ。

「栞里姉さん、颯を追い詰めないで!」

加奈の目から涙があふれ、声は悲鳴みたいに震える。

「悪いのは全部私! 怒りたいなら私にぶつけてよ! 颯は最近、会社のことも私のこともあって、もうヘトヘトなのに……なんで今、離婚なんて言って苦しめるの?」

相葉栞里は眉を寄せ、掴まれた腕に視線を落とした。

「離して」

だが加奈は離すどころか、指先に力を込めた。整えられたネイルの先が、トレンチコー...

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