第112章

相葉栞里はその包丁を見て、次に栗山加奈の歪んだ顔を見た。

――つまらない。

こんな芝居、あまりにも稚拙だ。付き合ってやる気すら起きない。

相葉栞里はまぶたひとつ動かさず、ハンドバッグからスマホを取り出して氷上颯に発信した。

コールは二回で繋がる。

「相葉栞里。今度は何だよ」

苛立ちを隠さない声。向こうでは、ビニール袋が擦れるような細かな音がしていた。

「あなたの女をちゃんと躾けて」

相葉栞里は早口で言い捨てる。

「自傷ごっこに付き合う暇はないの」

颯が返す隙すら与えず、相葉栞里は通話を切った。

スマホをバッグへ放り込み、踵を返して病室のドアへ向かう。未練など一欠片もない...

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