第116章

五十嵐琉生はグラスを置いた。こつり、と鈍い音が落ちる。

「渡辺さん」

低い声。ゆっくりとした口調なのに、息が詰まるほどの圧があった。

「瀬戸先生の診断、正確だったな。頭のほうが相当ヤバい。早めに受診したほうがいい」

渡辺秋沢の嘲りが、ぴたりと凍りついた。顔色が一気に青ざめ、羞恥と怒りが一気に込み上げる。

「……誰が――!」

渡辺秋沢が指を突きつけ、一歩踏み出す。

五十嵐琉生はまぶたすら上げない。背後の黒服が二人、すっと前に出て渡辺秋沢の進路を塞いだ。

そこへ、かつかつ、とヒールの音。

栗山加奈が急いで近づき、氷上颯の腕に縋りつく。

「颯、秋沢、やめて……」

弱々...

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