第25章

三十分後、栗山加奈は車椅子を押しながら、息を切らしてバーへ駆け込んだ。

氷上颯が会社の件で動いているものだとばかり思っていた。まさか、こんな場所でひとり、酒に溺れているなんて。

「颯?」

栗山加奈はソファの脇まで滑り寄り、酒の匂いをまとった男を見上げる。胸の奥がきゅっと疼き、支えようと手を伸ばした、その瞬間。

氷上颯が気配を察したように、いきなり彼女の手首を掴んだ。骨が軋むほどの力。

加奈の心がぱっと明るくなり、口を開きかけた。だが次に耳へ落ちてきたのは、途切れ途切れの低い声だった。

「栞里……行くな……欲しいものは全部やる……離婚、するな……」

氷上颯は目を閉じたまま、眉間を...

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