第29章

「颯……」

彼女は力なく手を伸ばした。声はかすれ、ほとんど聞き取れない。

氷上颯は大股で駆け寄ると、彼女をそのまま強く抱き締めた。失っていたものを取り戻した安堵と、あと一歩遅れていたかもしれない恐怖が、その声に滲む。

「もう大丈夫だ、加奈。俺が来た。もう大丈夫だから」

栗山加奈は広くて温かい胸に縋りつき、彼の服の前をきつく掴んだ。全身が激しく震えている。

「颯……」

呼びかけが最後まで形になる前に、彼女はふっと目を閉じた。頭が力なく氷上颯の腕の中へ沈み、そのまま完全に意識を失う。

気を失った栗山加奈を抱きかかえたまま、氷上颯は胸を引き裂かれるような痛みに顔を歪めた。

そこへ突...

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