第30章

相葉栞里はスマホを無造作に窓の外へ放り投げると、シートに深くもたれ、そっと目を閉じた。声は、底なしの淵のように静まり返っていた。

「押せばいいわ。爆破でも何でもして」

今度は犯人のほうが息をのんだ。

助手席で血まみれになり、生きる気力さえ失った女を見つめる。その手に握った起爆装置が、かすかに震えていた。

車の外では、すでに警察の交渉係が拡声器で呼びかけを始めている。

ミニバンの中を満たしていたのは、息が詰まるような絶望だった。

犯人はがくりと肩を落とし、ナイフを下ろした。生気のない相葉栞里の顔を見つめたかと思うと、次の瞬間、乾ききった哄笑をひとつ漏らす。

「何を押せってんだよ」...

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