第50章

氷上颯の顔色がさっと変わった。胸の奥を、鋭い何かで思いきり突き刺されたような痛みが走る。

「そこまであの女を愛していて、そのためなら一線まで越えられるっていうなら――」相葉栞里の声はきっぱりとしていて、嫌悪を隠しもしないまま言い切る。「だったら明日にでも離婚届を出しましょう。早く氷上夫人の座を空けて、栗山加奈に堂々と幸せをあげたらいいわ」

「離婚だと?」

氷上颯の眉がぴくりと跳ねる。目に浮かんだ驚愕は、次の瞬間には怒りに塗り潰されていた。

彼は一歩で間合いを詰めると、相葉栞里の手首を乱暴につかんだ。骨が軋みそうなほどの力。

「離婚なんかしない」

歯を食いしばり、低く吐き捨てる。

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