第56章

氷上颯の顔は水を張ったように冷え切り、全身から息が詰まるほどの重い圧が滲み出ていた。彼はスマホを取り出し、外で待機しているボディガードに低く命じる。

「幼稚園へ行け。相葉栞里を連れて来い。拒むなら――縛ってでも連れてこい」

それから三十分後。

廊下の奥から、ばたばたと足音が近づいてきた。

相葉栞里は屈強な男二人に左右を挟まれる形で、救急処置室の前まで連れて来られた。

ベージュのトレンチコートはそのまま。表情は冷ややかで、背筋は凛と伸びている。無理やり引っ張られてきたというのに、狼狽も、みっともなさも、微塵もない。

その姿を見た瞬間、渡辺秋沢の中で新旧の怒りが一気に噴き上がった。

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