第86章

氷上家のあれこれから切り離された途端、息をする空気までふわりと軽くなった。

金曜の夕方。相葉栞里がスーパーを出たところで、スマホの画面がぱっと光る。

表示されたのは五十嵐琉生の番号。通話を取ると、返ってきたのは五十嵐奏斗の、いかにも悔しそうで心細い声だった。

「天女さん……」

相葉栞里の硬い眉目が、瞬く間にほどける。買い物袋を持ち替えながら言った。

「奏斗? お父さんは?」

「パパ、Y国に出張なんだ。帰ってくるの、来週……」

受話器の向こうの声は、今にも泣き出しそうに震えている。

「明日、うちの幼稚園の六十周年の記念式典があってね。先生が、みんな家の人に見に来てもらってくださ...

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