第89章

五歳の子どもが、どうして実の母親にそこまでの憎しみを抱けるのだろう。

氷上颯は眉間に深い皺を刻んだ。骨の髄まで染みついた傲慢さが、反射的に原因を相葉栞里の冷酷さへと押しつける。

「相葉栞里、今の様子を見ろ」

声を落とし、施しでも与えるみたいな調子で言い聞かせる。

「子どもに必要なのは母親の慰めだ。上から目線の説教じゃない。ちゃんと向き合ってやれ。母親としての器量を見せるくらい、お前にはそんなに難しいのか?」

相葉栞里は、目の前の三人を静かに見つめた。瞳の奥の嘲りが、今にも溢れそうだった。

五年、心臓を差し出すみたいに尽くしてきた。返ってきたのは何だ。恩知らずの裏切り。平然とした踏...

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