第211章 誰も傷つかなかった

なぜだろう。かつての記憶が脳裏をよぎり、林田知意の胸の奥がちくりと痛んだ。傷の手当てがおおむね終わったのを見計らい、彼女はすっと自分の腕を引き戻す。

「気をつけます。もう大丈夫ですから、佐藤社長はそろそろお引き取り願えませんか」

過去の因縁がフラッシュバックしたせいか、知意の心は乱れ、沈んでいた。

佐藤聡も彼女の様子の変化を察したのだろう。それ以上、強引に居座ろうとはしなかった。

「怪我人は運転するな。夕方、俺が学校へ自由を迎えに行く。その足でお前の別荘まで送り届けてやる」

林田知意にとって、自由が何より大切な存在であることを佐藤聡は知っている。

本来なら今日も自由を自分のところ...

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