第2章 一人の結婚式

その時、福江家のお婆さんは福江良平の花嫁を高額で物色していた。

継母の千葉智子はこれを知り、高額な結納金を得るため、彼女を福江家に嫁がせることにした。

継母は涙ながらに、これも父の会社を立て直すためのやむを得ない選択だと、千葉家のためだと訴えた。

しかし千葉清美には分かっていた。これは継母と義理の妹が、彼女を千葉家から追い出すための口実に過ぎないことを。

さらに衝撃だったのは、日頃から愛を囁いていた恋人が、既に完全に彼女を裏切っていたこと。

まるで馬鹿にするかのように、彼女を弄んでいたのだ。

福江翔也が駆け落ちを拒んだ理由も、今なら分かる。

福江良平が死んでから結婚しようと言っていたのも。

ただ彼女を引き留めるための方便だったのだ。

彼は既に別の女と関係を持っていた。

これまでの幸せは、まるで仮面のように粉々に砕け散った。

千葉清美は壁に寄りかかり、胸が引き裂かれるような痛みを感じていた。

父は重病、恋人は裏切り、そして自分は死期の近い男との結婚を強いられている。

なぜ私の人生はこんなにも惨めなのだろう。

「翔也、私と姉とどっちがいい?」

「あんな堅物の干からびた女なんか忘れろよ。花子のようなみずみずしさはないぜ。」

「翔也って本当に意地悪いね」千葉花子の声は次第に小さくなり、頬を赤らめるような嬌声が混ざり始めた。

部屋の中からは二人の激しい営みの音が漏れ、絡み合う体の音が聞こえてきた。

千葉清美は背筋を伸ばし、拳を握り締めた。瞳に冷たい光が宿る。

福江翔也こそが、人生の支えになると信じていた。

まさか、こんな完璧な裏切りに遭うとは。

千葉清美はドアを開けようとしたが、思い直して更衣室へと向かった。

これまでは父を困らせまいと、継母と妹からの虐げに黙って耐えてきた。千葉家のためと、全ての不当な仕打ちを耐え忍んできた。

もう馬鹿にされるのは終わりだ。

これからは、自分のものを取り戻す時だ。

更衣室に戻った彼女は、鏡の前で身なりを整えた。

鏡に映る冷艶な美貌を見つめながら、千葉清美は心に決意を固めた。

素晴らしいショーの幕が、今まさに上がろうとしている。

結婚式が始まった。

千葉清美はウェディングドレスに身を包み、ベールを纏い、ブーケを手に優雅に歩を進めた。

自ら誓いの言葉を述べ、指輪をはめた。

列席者たちは、異様な目で彼女を見ながら、こそこそと噂し合っていた。

彼女は一切気にしなかった。

全ての式次第を一人でこなした。

今日から、彼女はA市の大富豪福江良平の妻となる。もう誰も彼女を侮れない。

たとえ、かつてA市で絶大な権力を誇った新婚の夫が、今は余命僅かだとしても。

式が終わり。

千葉清美は福江良平の豪邸へと案内された。

この邸宅は都心の高級住宅街に位置し、総額二百億円の建物だった。

家政婦の長野久美子に導かれ、福江良平の寝室へと向かう。

福江良平はベッドで静かに横たわっていた。

彼の整った顔立ちは、昏睡状態にありながらも気品を漂わせていた。

長期の寝たきり生活で、彼の肌は異常なほど白かった。

まるで最高級の白磁のような、極限まで洗練された美しさだった。

まるで仙人が地上に降り立ったかのような、どこか儚げな美しさ。

それでもなお、目が離せないほどの端正な容姿を保っていた。

植物状態で余命僅かでなければ、千葉清美が彼の妻になることなど、あり得なかっただろう。

A市の名家の令嬢たちは、かつて誰もが彼との結婚を夢見ていたのだ。

植物状態になる前、彼はSTグループを率い、絶大な権力を持つ実力者として、A市を牛耳っていた。

常に頂点に立ち、衆生を見下ろす存在だった。

噂では冷酷無比で気性が荒く、裏社会とも繋がりがあり、彼に逆らった者は誰もが悲惨な末路を辿ったという。

千葉清美は以前、まさか自分が福江良平の妻になるとは、夢にも思わなかった。

この伝説的な人物の。

彼女が昏睡中の福江良平を見つめていると、突然寝室のドアが開いた。

福江翔也だった。

彼は駆け寄り、千葉清美の手首を掴んだ。

「清美、ごめん!今日はずっと監視されていて、身動きが取れなかったんだ。やっと今、君に会いに来られた」

かつての千葉清美は、この情熱的な態度に騙されていた。まるで魔法にかかったように。

千葉清美は手を振り払い、冷たい目で彼を見つめた。

冷笑を浮かべながら「福江翔也さん、私はもうあなたのおじさまの妻です。私のことを何て呼ぶべきか、教えてあげましょうか?」

「清美、そんな風に言わないでくれ。駆け落ちしなかったのは、君を苦しい思いをさせたくなかったからだ。もし逃げ出せば、僕は福江家の財産は一切もらえないし、ボディーガードに追われることになる。全て君の安全と幸せのためよ!」

千葉清美は腕を組み、冷ややかに彼を見つめた。

「続けろ」

福江翔也は今の千葉清美の態度に、戸惑いを覚えていた。

喉を鳴らし、表情を変えない千葉清美を前に、意を決して続けた。

「おじさんは今、昏睡状態で何もできない。君は今や彼の合法的な妻だ。彼が死ぬのを待てば、莫大な遺産を相続できる!」

福江翔也は興奮して彼女の手を握った。

「そうすれば、彼の全てが僕たちのものになる。もう隠れる必要もないんだ!」

千葉清美は彼と千葉花子の密会を思い出し、吐き気を覚えた。

冷笑を浮かべ、細めた目で彼を見つめた。

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