第357章 恋というもの

中村颯太は社長の側近の秘書だ。社員たちも彼の顔を見れば、自然と背筋が伸びる。

「こら、仕事しろ」

そうひと言飛ばしただけで、周囲もさすがに「喋りすぎたか」と空気を改めた。誰だって抱えている業務は山ほどある。終業までに片づかなければ残業だ。

しかしSTグループに残業の慣習はない。福江良平は、残業が必要な社員は「突発の緊急案件」か「単純に仕事が遅い」かのどちらかだと見ている。能力不足で社長の印象を悪くしたい者など、いるはずがない。

社長室。中村颯太は扉の前に立ち、控えめにコンコンとノックした。

福江良平は書類から目だけを上げ、視線で「そこに置いておけ。あとで見る」と指示する。

中村は...

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