第372章 あなたを失うのが怖い

すべてが、一瞬で起きたように思えた。

野乃は震える両手を顔の前にかざした。頬を焼くような痛みが走る。触れて確かめたいのに、痛すぎて指先が近づけない。ただ「ぁぁぁぁっ!」と悲鳴を上げるしかなかった。

福江翔也が駆け寄り、野乃の顔を見て凍りついた。さっきまで整っていた顔立ちは見る影もなく、黒くえぐれたようにまだらになり、血混じりの液体が垂れている。胃の奥がぐらりと反転し、彼は「うっ」と声を漏らして、さっき飲んだ赤ワインを吐き戻した。

店員たちは突然の出来事に呆然としていたが、ようやく我に返る。

「早く、あいつを捕まえろ!」

だが、店内に黒い服の男の姿はもうどこにもない。

別の店員が駆...

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