第100章 深夜

(牧野結菜の視点)

あの夜、平山里穂子はソファからふいに立ち上がった。

「ちょっと下、行ってくる」

それだけ言い捨てると、上着も持たずに慌ただしく靴を履き、外へ出ていった。ドアが閉まる音は小さかったのに、廊下で電話をかける気配だけははっきり伝わってくる。足音はせわしなく、声はひどく低い。――私に聞かれたくない、そんなふうだった。

何をしに行くのかは訊かなかった。けれど、あの表情を見ればわかる。いい話じゃない。

私はソファに座ったまま、玄関を見つめ続けた。窓の外は深い夜。街灯がひとつ、またひとつと灯り、オレンジ色の光の輪が線になって遠くまで伸びていく。

時間を数える。

一分、二分...

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