第122章 彼は逃げられない

(福山真司の視点)

オフィスは、一晩中灯りが消えなかった。

俺はソファに沈み込み、天井を睨んだまま、頭の中で同じ映像を何度も再生していた。

一度、彼女が風邪をこじらせて熱を出した。頬は真っ赤で、唇は乾いてひび割れていた。

俺が仕事から戻ると、彼女はふらつきながらもキッチンに立って、夕飯を作っていた。

あのとき、俺は何を言った?

――病気ならキッチンでうろつくな。菌を移されたらどうする。

つらいか、苦しいか、そんなことは一度も訊かなかった。

水を一杯も注いでやらなかった。

目すら、ろくに向けなかった。

彼女がどんな顔をしていたか。思い出せない。

いや、違う。俺が見ていなか...

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