第142章 捨てるな

(牧野結菜の視点)

平山徹也は振り返りもしない。結菜のほうへ顔を向けたまま、私に背を向ける形で、どこか硬い声を落とした。

「牧野結菜。平山里穂子には何度言った? あの日のあの一言は、言葉どおりの意味だ。勝手に尾ひれをつけて、あれこれ勘ぐるのはやめろ。俺はいつも正々堂々だ。誰かに“説明”してもらう必要なんてない」

一拍置いて、言い過ぎたとでも思ったのか、ぎこちなく付け足す。

「……受け取ったものはちゃんとしまえ。なくすな」

それだけ言い残して、彼は大股で歩き去った。革靴が廊下を叩く音が、だんだん遠ざかっていく。

私はその背中を見送りながら、机の上の小さな箱に、無意識に指先を触れた。...

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