第144章 人違いだった

(牧野結菜の視点)

「人違いです」

声は小さい。けれど、氷みたいに冷たくした。

「人違い? そんなわけあるか!」

重盛が膝を叩き、さらに声を張り上げる。

「奥様、去年の福山さんの誕生日パーティーで、奥様が福山さんにお茶を差し上げたでしょう! 俺、横で果物の皿を持ってましたよ! 青いドレスで……福山さんが『品があって堂々としてる、福山家に来てくれたのは福だ』って――」

「もういい」

遮った。爪が掌に食い込む。

「あなたのことは知りません。馴れ馴れしい呼び方はやめてください。退勤する人は退勤して。ここで時間を潰さないで」

踵を返し、エレベーターに手を伸ばす。

――その一歩を踏...

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