第172章 彼女は一歩引いた

【牧野結菜の視点】

取調室の扉は閉まっている。けれど、防音ガラス越しに中の声が滲んで聞こえた。短髪の男が、ついに口を割る。

「……正直に言います。福山社長から毎月30万もらって、牧野さんを見張ってました。写真を撮って、行動を記録して、毎晩8時までにその日の報告を社長に送るよう言われてて」

警察官が問う。

「具体的な指示は?」

「外出は全部撮れって。あと、牧野さんと接触した男は重点的に、特に“杉浦”ってやつ。社長が言ってました。牧野さんとそいつが同じ画面に入ったら、必ずその場で送れ。翌日に持ち越すなって」

警察官が顔を上げ、男を見た。

「他には?」

「……それと、牧野さんに変な...

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