第233章 消えた口紅

(牧野結菜の視点)

平山徹也との通話を終えても、私はすぐにスマホを置けなかった。画面はまだ点いたまま。平山里穂子とのトーク画面、最後のメッセージは「私は大丈夫」。

その五文字を、私は長いこと見つめていた。やがてロックをかけ、胸元に押し当てる。

窓の外は、まだ深い夜。病室の蛍光灯だけが白々しく眩しい。目を閉じると、頭の中を埋め尽くすのは里穂子の声だった。

――結菜、怖い。

どれくらい経ったのか。スマホがまた震えた。里穂子から、長いメッセージ。

【平山里穂子:結菜、うちの母、帰った。さっき廊下で、幸村夫人が私の前に膝ついて泣いて、謝ってきた。幸村さんは頭下げて、治療費も慰謝料も好きに...

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