第235章 彼女だけは嫌だ

(牧野結菜の視点)

平山里穂子が帰ってから、そう時間は経っていなかった。病室のドアが、またそっと押し開けられる。看護師じゃない。幸村千弘だった。

顔色がひどく悪い。唇には血の気がなくて、それでも背筋だけは妙に真っすぐだった。彼は私を一度だけ見て、中には入らない。ドア口に立ったまま――私がまだここにいるか、確かめるみたいに。

「起きたの?」

私がそう声をかけると、

「……うん」

掠れた声が返ってきた。喉仏が、ごくりと上下する。

「大丈夫か」

「うん。大丈夫」

彼は小さく頷いただけで、それ以上は何も言わない。静かにドアを閉め、廊下へ消えていった。

足音は軽くて、だんだん遠ざか...

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