第30章 遺品

(牧野結菜の視点)

村山愛未は、ほとんど鼻歌まじりにリビングへ入ってきた。

私は物置から出てきたところで、手には空の段ボール箱。片づけの途中だった。軽い足音が近づいた瞬間、指先がふっと止まる――今日は機嫌がいい。いいどころじゃない。隠す気すらないほどに。

「牧野結菜!」

呼び止められ、彼女は早足で寄ってくる。手にした書類袋を、テーブルへ――ぱん、と叩きつけた。静まり返ったリビングに響く音は、平手打ちみたいに生々しい。

「サイン、してあるわ」

私は彼女を一度だけ見た。ほんの一瞬、間が空いただけだ。テーブルの上には、ずっと待っていたものが横たわっている。胸が高鳴って、すぐにでも中身を...

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