第62章 お前など思うな

(福山真司の視点)

俺は、彼女が大げさに騒いでいるだけだと思っていた。こうやって俺の気を引こうとしているのだと。

電話の向こうで、彼女が死の淵でもがいているなんて――欠片も知らなかった。

「……知らなかった……」

俺は反射的に岩瀬さんの腕を掴んだ。骨が軋みそうなほどの力で。言い訳みたいで、懇願みたいで、声がぐちゃぐちゃになる。

「そんなに深刻だなんて! もし知ってたら……俺は、絶対に……!」

喉が震えて、言葉が形にならない。

知っていたなら、真っ先に駆けつけていた――そう言いたかった。

でも、何の意味がある。俺は行かなかった。俺の手で、彼女を一人、死の縁に置き去りにした。

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