第75章 彼はふさわしくない

(牧野結菜の視点)

彼は手を放さなかった。むしろ乱暴に力を込め、私を助手席へ押し込む。

バン――ドアが叩きつけられるように閉まり、同時にドアロックが「カチッ」と音を立てた。

「福山真司!」

杉浦晴陽の穏やかな表情が消える。駆け寄ってドアノブを引き、必死に叫んだ。

「それ、監禁だぞ! 犯罪だ!」

福山真司は振り返る。血走った目は、怒りに煽られた獣そのもの。杉浦晴陽を射殺すように睨みつける。

「俺の妻だ。お前が口を出す筋合いはない」

歯の隙間から絞り出すように吐き捨てた次の瞬間、握りしめた拳が、何の前触れもなく杉浦晴陽の顔面へ叩き込まれた。

ドンッ!

鈍い衝撃音が、だだっ広い...

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