第79章 家の味

(牧野結菜の視点)

「結菜――今まで、俺がつらい思いをさせた。これからの人生は、俺が守る。……いいか?」

彼は、驚きでわずかに見開いた私の目をまっすぐ見つめたまま、その言葉を口にした。

「俺と結婚してくれないか」

静かな車内に、彼の声だけが澄んで響く。

真剣で、逃げ道のない響きだった。

私は怯えたみたいに、彼の瞳に宿る熱を見てしまって――反射的に、ゆっくりと手を引いた。

「先輩、たぶん……誤解してます」

「誤解じゃない!」

彼は少し感情を荒らげ、私の手首に残る青紫の痕へ視線を落とす。痛々しい色に胸を締めつけられたみたいに、顔が歪んだ。

「結菜、わかってる。お前があいつと結...

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