第82章 かつての「家」

(福山真司の視点)

自分がどうやって会社を出たのか、覚えていない。

実家へは帰らず、気づけば車のハンドルを、あの場所へ向けていた。

牧野結菜と一緒に暮らした、あのマンション。昔は見下していたくせに、今はそこ以外に行きたい場所がない――そんな場所だ。

車を下に停めたまま、しばらく動けなかった。

ようやく重たい足を引きずるようにして、エントランスを抜けた。

エレベーターの扉が開く。薄暗い廊下の片隅に、細い影が縮こまっていた。

俺を見た瞬間、彼女は弾かれたように立ち上がり、泣き声のまま駆け寄ってくる。

「真司さん! やっと帰ってきた!」

村山愛未。

ずっと待っていたのだろう。薄...

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