第92章 気持ち悪い

(牧野結菜の視点)

彼が私の手首を掴む力が、ふっと固まった。

泣くとか、喚くとか、崩れ落ちるとか。

ヒステリックに「どうしてこんなことをするの」と詰め寄るとか。

たぶん、そういう反応を想定していたのだろう。

けれど――私が、こんなにも静かだなんて。

それだけは、想像していなかった。

私は嫌悪感に眉を寄せ、手を引き抜こうとする。

だが、指は強く握り込まれ、びくともしない。

「福山真司、離して」

声は平坦だった。ただ事実を告げるだけの音。

「離すかよ!」

ほとんど怒鳴り声だった。充血した目が、さらに赤く濁っていく。

「一生、離してやらない! お前は――俺のだ!」

その...

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