第93章 振り切れない

(牧野結菜の視点)

バックミラーに、あの車が映っていた。

ぴたりと、執念深く背後に張りついている。

平山里穂子が苛立ちのままハンドルを拳で叩く。

ぶわぁん、とクラクションが耳を裂いた。

「このキチガイ! どこまで追ってくる気よ!」

私は振り返らない。シートに背を預けたまま、血の気の失せた顔で目を閉じる。

なのに脳裏には、福山真司の目が勝手に浮かんだ。血走って、狂っていて、それでいてどこか絶望している目。

復讐の快感が、喉を焼く強い酒みたいに一瞬だけ身体を駆け抜ける。

けれど熱は数秒で消えた。残ったのは、底なしの疲労と虚しさ。胃のあたりがすうっと空っぽで、何かを抉り取られたみ...

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