第252章

言い捨てると、鈴木芳子の弟はバールを取り出して傍らに置き、黒川綾を睨みつけた。その瞳は脅迫の色に満ちている。

こんな人里離れた場所だ。もし本当に殺されたとしても、誰にも気付かれないだろう——黒川綾はそう悟っていた。

命を粗末にするような真似はできない。彼女は大人しく部屋の隅に身を縮めた。

今や唯一の希望は、水原拓真だけだった。彼が自分の失踪に気付き、一刻も早くここを見つけ出してくれることを祈るしかない。彼が来るまで持ちこたえることさえできれば、助かるはずだ。

一方、水原拓真は手がかりを頼りに車を走らせていたが、山間部の分岐点に差し掛かると、進むべき方向を見失ってしまった。

秘書が歩...

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