第323章

彼女は、この件について見て見ぬふりをすることなど到底できなかった。

これから先、一体どうやって水原拓真と向き合えばいいのかすら分からない。

黒川綾のそんな警戒しきった様子を見て、秘書もそれ以上何も言えず、急いで頷いて承諾した。

「奥様、どうかご安心を。この件、お引き受けしたからには、必ず約束を守り、隠し通してみせます」

心ここにあらずといった黒川綾の姿から、秘書は事態がそう単純ではないことを察していた。

だが、黒川綾が語ろうとしない以上、どうしようもない。これ以上踏み込むべきではないからだ。

車に乗り込んだ黒川綾の脳裏には、先ほどの吉野文詠の言葉が絶えずよぎっていた。

どれほど...

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