第362章

子供の無邪気な声が、唐突に静寂を破った。

黒川綾がはっと我に返ると、窓の外はすっかり夜の闇に包まれていた。

彼女は無理に微笑みを作り、輝星を見つめた。

「ごめんね。ママ、お仕事のことで頭がいっぱいで、輝星のこと放っておいて。怒らないでね」

「ママ、僕怒ってないよ! 男の子だもん、そんなちっちゃいこと気にしない。今日ね、パパがお迎えに来てくれて、おっきな風船買ってくれたんだ……」

子供の世界は、ひどく単純だ。

たった一つの風船で、いつまでも笑顔でいられる。

黒川綾は輝星の手を引いて会社を出た。その間、水原拓真の方には一度も視線を向けず、ただひたすらに子供の世話を優しく焼いていた。...

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