第545章

去ってしまった。

あっさりと、去ってしまったのだ。

その決然たる後ろ姿を前にして、林田夫人はひどく狼狽した。

莫大な財産をすんなりと手に入れられると思っていたのに、まさか彼女がこうもあっさり立ち去るとは。あの子のことなど、まるで歯牙にもかけないかのようだ。

ならば、これからどうすればいいというのか。

財産が手に入るはずだったのに、結局何も得られなかった。

本来、林田夫人はすでに航空券を手配し、海外へ戻るつもりだった。だが今となっては出発するわけにもいかず、きびすを返してあるプライベートクラブへと足を運んだ。

眠い目を擦りながら、林田承一は電話を受けるや否や駆けつけてきた。

母...

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