第582章

黒川綾が嫉妬するのも、俺に焼きもちを焼くのも、気が狂ってあの子に手を出すのも――それくらいなら、許せた。

だが、白井弦羽が理由なのだけは絶対に駄目だ。

水原拓真は目を閉じ、そして開いた。瞳の奥に滲んだのは、悲しみだった。

「……もう、戻れないのか?」

秘書はずっと水原拓真の傍にいた。二人のことは、何もかも知っている。

だからこそ、その問いに顔を歪める。

二人の間には、あまりにも多くのものが挟まっていた。

彼は口を開きかけ、慎重に言葉を選んだ。

「……もし先生が、本当に奥様のことをお好きなら。お二人で、面と向かって、ちゃんと話したほうが……」

今みたいに、互いを疑い合うのでは...

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