第584章

一枚の扉を隔てた向こう。

あまりにも荒唐無稽な誘惑の算段が耳に入ってきて、林田安織は思わず吹き出しそうになった。

――やっぱり、母親が母親なら、娘も娘だ。

母娘はその場で、水原拓真をどう籠絡するか、どうやって少しずつ心を奪い、子どもを利用して財産を手に入れるかを、嬉々として語り合っている。

それだけ多くの目が、その子に明も暗もなく注がれていることを、欠片も考えていない。守る算段など、端からないのだ。

どうせ大事な話は出てこない。林田安織は踵を返し、産婦人科へ入った。

精密検査の結果は、胎児の発育は順調。

まだ形すらない、ただの胚にすぎないのに、林田安織の目からは感情があふれ落ち...

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