第590章

車内の空気が、瞬く間に妙なものへと変わった。

呼吸まで、薄くなる。

吉野文詠は自分の耳を疑った。しばらくしてようやく息を取り戻し、震える声で言う。

「……考えたこと、ないんですか。復讐が終わったら、自分の幸せを手に入れて生きるって。そういうの、望まないんですか」

「幸せな生活? この世にそんなもんが本当にあると思ってるのか。俺は最初から信じてない。――忘れるな。あのとき俺がいなかったら、お前はこの先、幸せなんて口にできたか?」

次の瞬間、白井弦羽の手が吉野文詠の喉元を掴んだ。五本の指が、じわじわと締め上げてくる。

息が詰まり、視界がにじむ。顔色が紫に変わり、瞳の焦点がゆっくりとほ...

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