第1章
美月視点
その夜、凍てつくような風が刃物のように私の頬を裂いた。パトカーの赤と青の回転灯がけたたましく明滅し、心理学研究室の建物の外に降り積もった真っ白な雪を、血のように不気味な色へと染め上げていた。
私はただそこに立ち尽くし、制服警官たちが行き交うのを、そして白いシーツに覆われたストレッチャーが建物から慎重に運び出されるのを、茫然と眺めていた。シーツの端から、見慣れた手がだらりと垂れ下がっているのが見える。淡いピンクのマニキュアが施された、昨日、私たちの論文が受理されたお祝いに、喜びを分かち合ってハイタッチしたばかりの、あの手——。
その瞬間、足元から世界が崩れ落ちる音がした。
「いやっ! 里奈!」
どうやってストレッチャーに駆け寄ったのか、覚えていない。ただ、胸から突き上げてくる張り裂けるような痛みが、自分のものではないような絶叫に変わったことだけは確かだった。あの忌まわしい白いシーツを剥ぎ取りたい。里奈の顔を見て、これがすべて恐ろしい悪夢なのだと、誰かに教えてほしかった。
「落ち着いてください!」
若い警官が、事務的な口調で私の行く手を阻んだ。
「離して! 彼女は私のルームメイトなの!」
涙で滲む視界の中、私はもがいた。
「里奈! 一緒に卒業するって約束したじゃない! なんで……なんでこんなこと……!」
「美月……」
背後から聞こえた低い声に、はっと振り返る。研究棟の入り口に、海斗が立っていた。いつもは穏やかな彼の顔が、今は複雑な感情に歪んでいる。その瞳には驚きと痛み、そして——まるで何かを責めるような、あるいは憐れむような、判然としない光が宿っていた。月明かりの下、彼の影は長く伸びている。この夜が私に感じさせる絶望と同じくらい、果てしなく。
「検視官の初見では、実験中の事故死という見立てです」
近づいてきた中年警官が、私たちに温度のない声で告げた。
「被験者は、深睡眠実験中に機材が誤作動を起こし、窒息死したものと見ています」
事故? 頭の中が、真っ白に染まっていく。里奈は私が知る中で最も細心な研究者だった。彼女がそんな初歩的なミスを犯すなんて、あり得るはずがない。
私は雪の中に膝から崩れ落ち、冷たい結晶が頬で溶けていくのをなすがままにしていた。周囲の喧騒が遠のいていく中、心の中では一つの声だけが、はっきりと大きく響き始めていた。
——真実を暴き出す。どんな代償を払ってでも、里奈の無念を晴らしてみせる、と。
あれから、三ヶ月が経った。
今、私は教会の入り口に立っている。純白のウェディングドレスに身を包み、黒沢昭彦教授の腕にそっと手を絡ませて。ステンドグラスから差し込む陽光が、大聖堂の内部を温かい黄金色に照らし出す。荘厳なオルガンが奏でる『結婚行進曲』と共に、純白のユリの甘い香りが満ち、参列者は皆立ち上がって、私たちを憧れの眼差しで見つめている。
この瞬間、私は世界で一番幸せな花嫁だ。
「準備はいいかい、美月」
黒沢教授が私の手を優しく握り、耳元で囁く。
私は彼を見上げた。学界で人望の厚いこの男性は、彫りの深い理知的な顔立ちに、穏やかな物腰をたたえている。私を見つめる鳶色の瞳には、ひたむきな愛情が満ちているように見えた。どんな女性も、このような男性と結ばれることを誇りに思うだろう。
「ええ」
私は人生で最高の笑顔を浮かべ、そっと頷いた。
私たちはゆっくりとバージンロードを進み、両脇に並ぶ人々から温かい祝福を受ける。天井からは純白の花びらが舞い降り、まるでおとぎ話の一場面のようだ。祭壇に辿り着くと、牧師が厳かに待ち構えていた。
「美月さん」
牧師の声は、温かく、そしてよく通った。
「あなたは、黒沢昭彦さんを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しいときも、彼を愛し、敬い、慈しむことを、死が二人を分かつまで誓いますか」
目に涙が浮かんでくるのを感じ、声がわずかに震えた。
「はい、誓います」
黒沢教授は私の指に結婚指輪を優しく嵌めてくれる。陽光を浴びて煌めく、見事なダイヤモンドだ。私たちは参列者の前で深く見つめ合い、そして、長く唇を重ねた。教会中に割れんばかりの拍手が巻き起こり、誰もが新郎新婦の門出を祝福している。
完璧な結婚式。そう言えるだろう。
しかし、披露宴の雰囲気は、それほど調和の取れたものではなかった。
私はシャンパングラスを片手に招待客の間を優雅に立ち回り、幸福な花嫁の役を演じきっていた。黒沢教授は誇らしげに私を妻として紹介し、褒め言葉を受けるたびに、私ははにかんで俯き、愛情に満ちた瞳で夫を見上げる。
だが、あちこちから囁き声が聞こえてくる。
「信じられない。なんで彼女が黒沢教授と結婚するの? 里奈さんが亡くなってまだ三ヶ月よ……」
心理学の後輩である女子大学院生が、友人に囁いている。
「里奈さんと黒沢教授、亡くなる前は付き合ってたって噂じゃない。美月って子、亡くなった親友の彼氏を寝取ったってことよね」
もう一人が付け加える。声を潜めているつもりだろうが、その一言一句が私の耳にはっきりと届いていた。
近くでは、年配の教授たちが顔をしかめている。
「あの美月という娘、純粋そうに見えて、とんだしたたかな女だったとはな」
「黒沢教授は学界の逸材だからな。前から狙っていたに違いない。それにしても里奈君の死後すぐに乗り換えるとは、恥知らずにもほどがある」
「まあ、よくある話さ。結局は、すべて利のためというわけだ」
私は微笑みを崩さず、何も聞こえなかったふりを続けた。
黒沢教授が近づいてきて、優しく私の腰に腕を回した。
「ダーリン、少し疲れたようだね」
「幸せすぎて、胸がいっぱいなだけですわ」
私は彼の胸にそっと寄り添い、その温もりと心臓の鼓動を感じた。
夜が更け、招待客が一人、また一人と帰っていく。私と黒沢教授は新居——彼の豪奢なヴィクトリア朝様式の屋敷へと戻った。ここが、これから数ヶ月、あるいは数年にわたる私の戦場となるのだ。
寝室の化粧台の前で一人、私はゆっくりと化粧を落とし始める。鏡の中の女はとても美しく、幸せそうで、まるで本当に夢に見た男性と結ばれたかのようだった。
ダイヤモンドのイヤリングを外す。その指先は、疲労からか、あるいは長く抑え込んできた怒りからか、かすかに震えていた。最後の口紅をクレンジングコットンで拭い去ると、鏡はようやく本当の私を映し出した。厚いファンデーションの下から現れた素顔は、人形のように青白く、冷え切っている。
スマートフォンを取り出し、画面の上で数秒間指を彷徨わせた後、たった四文字のメッセージを送る。
『作戦開始』
電話を置いた後、私は鏡の中の自分に向かって、静かに囁いた。
「見てて、里奈。……ゲームは、まだ始まったばかりよ」







