第5章

美月視点

五年という月日は、人の記憶を薄れさせるには十分かもしれない。だが、私にとって、あの日の出来事は昨日のことのように鮮明だ。私の姉、千葉未咲は、心理学科の博士課程に在籍する、聡明で理想に燃えた学生だった。黒沢昭彦の教え子になるまでは、輝かしい未来が待っているはずだった。

すべてが変わってしまったのは、ほんの数ヶ月のことだった。未咲は人が変わったように塞ぎ込み、夜ごと悪夢にうなされ、日に日に痩せ衰えていった。何があったのかと問い詰めても、彼女は決して口を開こうとはしなかった。そしてついに、最後の勇気を振り絞って黒沢からの性的暴行を大学に訴え出たとき——その声は、証拠不十分という壁...

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