第2章 もういい、やっぱり金をくれ
「金塊でも、ダイヤモンドでも、とにかく価値のあるものなら何でも交換してあげる!」渡辺千咲は目を輝かせ、興奮気味に言った。
「水はあるか?」男の声は掠れていた。
「ミネラルウォーター?それとも純水?ミルクティーもあるし、飲み物ならビールだってあるわよ!どれがいい?」
「水でいい」唇が乾ききっており、彼はただ綺麗な水が飲みたかった。
彼らのいる場所では、ペットボトルの水にさえ寄生虫が湧いているのだ。
この空間には渡辺千咲は入れるが、中島暁は物の出し入れしかできない。
渡辺千咲は意気揚々とキッチンへ向かい、自分のカップで中島暁のために菊花茶を淹れ、ついでに氷砂糖をいくつか放り込んだ。
「今何時だと思ってるんだい、さっさと手伝いに出てこないで!うちで飼ってる牛に餌はやったのかい?」
お婆さんは、渡辺千咲が寝間着のまま飛び出してきたのを見て、ひどく気に食わない様子だった。
時計を見ればもう九時だ。彼女の祖母は男尊女卑の考えが強く、両親が一人娘である彼女しか設けなかったため、ずっとこの家のことをよく思っていなかった。
その代わりに、伯父の家の子供たちをことさら贔屓している。
「女の子なんて金食い虫さ!稼ぎもしないで、嫁に行ったらよその家の人間になるんだから」
「大学まで行かせて、大金の無駄遣いだよ!だから言ったんだ、女が学校なんか行ってどうするんだい!その金を取っといて、将来甥っ子の嫁取り費用にでもすりゃあいいものを!」お婆さんは渡辺千咲の後ろ姿を見ながら、彼女が仕事をさぼってまた部屋に寝に戻ったのだと決めつけ、悪態をついた。
渡辺千咲は湯呑みを空間に置いたが、男がそれを取り出す気配はなかった。
「もしもし!」渡辺千咲が呼びかけても、返事はない。
あの男の話では、向こうは終末世界だという。まさか、彼女の空間と繋がった途端にゾンビに殺されたりしてないでしょうね?
さっき、ダイヤモンドや金塊が地面に落ちていても拾わないと言っていたのを思い出す。
荒廃した市街地に、時折ゾンビの咆哮が響き渡る。中島暁は肩を負傷し、血が服を赤く染め、乾いてこびりついていた。
彼は警戒しながら街の廃墟に目を向ける。濃い霧が空を覆い、あたり一面が灰色に霞んでいた。
かつて繁栄した都市は、今や見る影もなく荒れ果て、ゾンビの楽園と化している。
今、彼はゾンビに占領された都市にいた。どこもかしこもゾンビの腐臭が漂い、常に飢えたゾンビの化け物が現れないかと警戒しなければならない。
その時、突如として一体のゾンビが彼に襲いかかってきた。彼はとっさにゾンビの頭を斬り落としたが、その動きで背中の傷が引きつり、ズキリと痛んだ。
いくらかの水と食料を補給したことで、彼の体力はだいぶ回復していた。
瓦礫だらけの通りを抜け、道端には打ち捨てられた廃車が並び、地面の亀裂からは雑草が生い茂っている。
もうすぐ日が暮れる。夜になるとゾンビの活動が活発になるため、急いで隠れ場所を見つけなければならない。
「中島隊長、俺はもうダメです!もし死んだら、家族を……息子はまだ小さいんです!」
男は弱々しく言った。長い間水を飲んでいない唇は乾ききり、裂けて血が滲んでいる。
「馬鹿なことを言うな!」
「お前を見つけ出したからには、ここで死なせはしない!」
中島暁は眉をひそめ、空間から飲みかけの水のボトルを男に渡そうとした時、湯気の立つ菊花茶が一杯増えていることに気づいた。
あの少女が淹れてくれたのだろう。今はまず仲間を救い出し、それから店で彼女のために金を探してやろう。
彼は考えた末、先ほど解剖して取り出した晶珠を空間に放り込んだ。これは霊珠だ。彼女も吸収できるはずだ。
空間を発現させたということは能力者であり、吸収できるに違いない。
「ほら、水を飲め」中島暁は、淹れてもらった菊花茶には手を付けず、自分が飲み残した半分の飲料を渡した。
高橋良介はなぜ中島暁が突然飲料を取り出したのか分からなかったが、喉が渇ききっていたため、恐る恐る一口飲んだ。
「うまい……」
渡辺千咲が買った電解質ドリンクは口当たりが良く、彼らの世界にはないものだった。
「どこでこんな飲み物を?」高橋良介は我に返り、驚いて尋ねた。
「一言二言では説明できん。とにかく、これからは食料が手に入る」
高橋良介の目が途端に輝き出した。中島暁が食料があると言うなら、彼は信じる!
あの少女は、金、ダイヤモンド、晶珠なら何でもいいと言っていた。
先ほど晶珠を一つ空間に入れたが、彼女は受け取っただろうか。
渡辺千咲は受け取っていた!飲料が忽然と消えたのを見て、彼が取ったのだと分かった。だが、このウズラの卵ほどの大きさの緑色の球体は何だろう?
生臭い匂いもする。
「これは何?」
「これは晶珠だ。ゾンビの脳から掘り出した。お前も能力者なら、これを吸収すれば身体エネルギーを高められる」
男の声は先ほどよりずっと良くなっており、もうそれほど掠れていない。
「ゾンビの脳から掘り出した?」渡辺千咲は驚きのあまり晶珠を地面に落としてしまった。ゾンビの脳?それってつまり、人の頭から掘り出したってこと……?
平和な時代に生きる彼女には到底理解できない。まるで他人の脳みそを抉り出したようなものではないか。
「わ、私はいいわ……。やっぱり金塊にしてくれる?」渡辺千咲は呆れて言った。
「俺たちのこの空間は小さすぎる。これを使えば、お前の空間をアップグレードして大きくできるかもしれない!」と中島暁は言った。
「そうすれば、もっと多くの黄金やダイヤモンドを探してやれる」
「博物館の骨董品だって運んでやれるぞ」
「お前がこの世界で欲しいものは、食料と水以外なら何でも探してきてやる」
……
彼らの時空はすでに終末世界で、食料は乏しく、植物は変異し、土地は汚染され、水質も悪い。彼らが必要としているのは食料なのだ!
「わかった!じゃあ、どうやって晶珠を吸収すればいいの?」渡辺千咲は緊張して尋ねた。
彼女は恐る恐る、空間の地面に落ちた緑色の晶珠を拾い上げた。
先ほどの男の言葉を思い出す!もっと広い空間、もっとたくさんの黄金!
でも、吸収する前に、水道水で洗った方がいいわよね。
「飲み込むのが一番効率的な吸収方法だ。もし抵抗があるなら、握り潰しても吸収できる」
……
「わかった!」
渡辺千咲はまず空間から出て、水道でその物体を洗い清めた。
しかし、どうも手から奇妙な匂いが取れない気がする。
握り潰す?本気で言ってるの?ゾンビの脳から取り出したと言われなければ、このグミキャンディーのような感触は、むしろ受け入れやすいのに!彼女は意を決して晶珠を握り潰した。緑色の霧が噴き出し、エネルギーの大半は揮発してしまった。
ごく一部のエネルギーしか吸収できなかったが、この匂いは少々鼻につく。
「それはお前の体質を進化させ、身体を強くする」
