第138章

成田響が去り、バーの入り口には永瀬家の兄妹だけが取り残された。

冷たい夜風が吹き抜け、永瀬睦が身を震わせる。

永瀬誠は自分のジャケットを脱ぐと、彼女の肩にかけた。

「睦、兄さんの言うことを聞け。もう諦めるんだ。桐谷憂はお前を好いてはいない」

最初から、彼女のことなど眼中にないのだ。

永瀬睦には見えていない真実が、兄である彼の目には残酷なほどはっきりと見えていた。

かつては彼も、睦と桐谷憂が結ばれることを望んでいた。両家の政略結婚は、永瀬家にとって莫大な利益をもたらすからだ。

だが今は状況が違う。桐谷憂は結婚し、あろうことか空見灯に本気で惚れ込んでいる。

永瀬睦はその場に立ち尽...

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