第153章

エレベーター内の空気は、極めて異様だった。

先ほどの修羅場を目の当たりにし、空見灯の胸中は複雑に渦巻いていた。

永瀬睦は、桐谷憂にとって『高嶺の花』などではなかったのだ。桐谷憂は自ら真相を調査し、即座に証拠をまとめて警察に提出し、会社内での彼女の汚名まで雪いでくれた。

空見灯は深く息を吸い込む。空気中には、桐谷憂の香りが濃厚に漂っていた。

かつて肌を重ねた記憶が、彼女をその匂いに過敏にさせている。

だが今、その気配は彼女を窒息させそうなほど重苦しい。二人の間の何かが、決定的に変質してしまったことを悟らざるを得なかった。

幸い、エレベーターはすぐに目的の階に到着した。空見灯は逃げる...

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