第七十二章

幸いなことに、桐谷憂の別荘にはまだ車が何台も残っていたおかげで、彼らはあのポンコツ車で出かける羽目にならずに済んだ。

二人が急いで山荘に到着すると、予想外な人物が待ち構えていた。桐谷光希と神崎椿だ。

空見灯は反射的に懐の金針を隠そうとしたが、桐谷憂が一歩前に出て、彼女の動作を自然に遮った。

神崎椿は桐谷憂の後ろに空見灯がいるのを見て眉をひそめたが、すぐに愛想笑いを浮かべた。

「あら、空見灯さんもいらしたの?」

「何の用だ」

桐谷憂は空見灯の手を引き、桐谷大正の傍らに座らせると冷ややかに言い放った。

樫野には誰も入れるなと命じておいたはずだ。主人の不機嫌さを察した樫野が、慌てて説...

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