第九十章

桐谷大正は一之瀬楓花を泊めるつもりなど毛頭なく、それは桐谷憂も同じだった。

祖父と孫、二人の指示を受けた樫野さんがホテルを手配し、一之瀬楓花はすごすごと別荘を後にせざるを得なかった。

空見灯は桐谷大正の様子を一通り診て、体調に問題がないことを確認してから寝室に戻った。

だが、部屋を見渡した瞬間、彼女は深刻な問題に気づく。

ベッドが一つしかない。ソファすらないのだ。どうやって寝ればいいのか。

灯はカシミヤの絨毯を足で踏んで確かめた。厚みは十分だ。これなら夜、ここで寝ても底冷えはしないだろう。

「桐谷社長、シーツか余った布団はありませんか?」

灯はすでに視線を落とし、床の上に寝床の...

ログインして続きを読む