第十一章 頭痛の教授と秘められた取引

宮本雪穂はパークビュー湖畔高級学生マンションのリビングに佇んでいた。

ベージュ色のシャツにスラックス姿の彼女は、まるでオーロラベンチャーセンターで深夜まで残業する普通の新入社員そのものに見える。

手にはインキュベーターから持ち帰った事業事前資料を抱え、紙の端は指先で強く握られて少ししわになっていた。

この資料は本来、桐谷淵に命を救われた恩に報いるための謝礼であり、二人の面会を完全に公務だけの境界線に収める最後の防波堤でもあった。

だが錠前がカタリと音を立て、研究室の白衣を脱いだ桐谷淵が玄関に姿を現した瞬間、慣れ親しんだ圧迫感が室内全体を覆い尽くす。

雪穂は思わず半歩後ろに下がる。

室内恒温シ...

ログインして続きを読む