第5章 まるで何も変わっていないみたい

第五章 雨に閉じ込められたオーロラタワー、陳補佐が窓辺で人を見分ける

朝の光が全面ガラス窓から斜めに差し込み、机の上に半開きのノート PC 画面を照らし出す。

宮本雪穂は椅子に腰掛け、画面には昨夜途中まで作成した履歴書文書が開かれていた。カーソルは「業務経験」欄の最後端に止まったまま、微動だにしない。

欄内は文字で埋め尽くされているのに、一箇所だけどうしても事実通り記入できない空白が一年分続いている。丸一年、彼女はすべての時間を桐谷真の研究室に捧げ、データを回し、モデルを調整し、報告書を執筆した。だがそれらの成果に最後に刻まれるのは、いつも他人の名前だった。

紙の上に、自分の足跡は何一つ残せていない。

彼女はその空白をそのまま残し、無理に何かで埋めようとはしなかった。

キッチンから戸棚を開け閉めする音が響き、続いて食器をカウンターに置く軽い音が届く。

桐谷真が朝食を乗せた皿を持って出てくる。無意識に彼女の PC 画面を目にし、足を一瞬止めた後、何事もなかったかのように近づき、皿をキーボード脇に置く。背後から身を屈めて彼女の肩を抱き込み、顎を肩に載せ、些細な雑談をするような柔らかい声で囁く。

「何をしているの?」

「履歴書を作成しています」雪穂は振り返らず、視線を画面に固定したまま答える。「市中心部にオーロラというベンチャーインキュベーターがあって、研究分野が合致するので面接を受けてみようと思って」

二秒間の沈黙が流れた。

それから桐谷真は彼女の椅子をゆっくり半回転させ、目の前にしゃがみ込む。膝の上に置かれた彼女の手を包み込み、親指で指関節をそっと撫でる。視線は彼女の指先に落ちたまま、瞳を合わせようとしない。

「卒業後は何もする必要なんてない」怯えた子供をなだめるような優しい口調だ。「俺が養う。それにああいう場所は人の出入りが複雑だから、一人で行かせるのが心配だ」

雪穂は彼に握られた自分の手を見つめる。この両手はあまりに馴染み深く、かつて一生寄りかかれると信じていた。彼女はゆっくり、気づかれぬように手を引き抜いた。

「あなたは他の女性と付き合ってもいいのに」声はひどく細く、独り言のように響く。「私は面接に行くことすら許されないの?」

桐谷真の表情が一瞬硬直し、すぐ眉を寄せ、委屈が滲む口調で弁解する。「ジョジョのことを言っているの?彼女は幼馴染の友人に過ぎない、そう悪く考えないで ——」

雪穂はもう言葉を返さない。

「ただの友人だ」と真剣に弁明する彼の顔を眺め、胸底に途方もない不条理な疲労が湧き上がる。半分以上焼け崩れた建物の中に立ちながら、「火はまだ上がっていない」と言い聞かされているような心地だ。

彼は自分が嫉妬していると思い込み、これはただ宥めれば収まる小さな感情の拗れだと捉えている。佐藤京の話さえきちんと説明すれば、すべて元通りに戻ると信じている。

彼は消防通路の隙間から、自分が目撃した光景を知る由もない。

雪穂は椅子を再び PC 画面へ向け、履歴書の推敲を続ける。

桐谷真は立ち上がり、本棚横の引き出しからキャッシュカードを取り出し、キーボードの上に置く。声は変わらず穏やかだ。

「カードに 50 万円入っている。欲しいものがあれば何でも買っていいし、どこへ遊びに行きたければ俺が連れて行く。わざわざ嫌な思いをしに外へ出なくても」

雪穂はカードを眺め、手を伸ばそうとしない。

「私が欲しいのはお金だけではない」感情のない数式を述べるかのような平坦な声。「尊厳が必要なのです」

「俺のどこがあなたを尊重していないというの?」彼の眉は一層深く寄る。

雪穂は顔を上げ、この会話で初めて真正面から彼を見つめた。

「昨日の食事会で、ご家族が私をどう扱っていたか、あなたははっきりご存じのはず。あなたは一度も、ご家族の前で私の味方をしてくださらなかった」

声を大きくすることなく、一字一句釘を打ち込むように鮮明に響かせる。「何度も、ご家族に話してくれるとおっしゃっていましたのに」

桐谷真は一瞬黙り込み、俯いて声を沈める。「俺が悪かった。きちんと処理する」

「わかりました」雪穂はカードを彼の方へ押し戻す。「明日オーロラの面接に行きます。そちらが合わなければ、自分で別の仕事を探します」

彼は数秒間彼女を凝視し、表情に一切の緩みがないのを確かめ、やっと低く頷いた。「いいだろう」

承諾があまりに速かったため、雪穂はわずかに戸惑う。すぐに腑に落ちた —— 彼は本心で手を離したのではない。彼女が挫折して自ら戻ってくるのを待っているのだ。人の入り乱れた外の世界で痛い目に遭い、鼻を赤くした末、彼が用意した椅子に大人しく座り直す日を待ち望んでいる。

この寛大さは決して尊重ではなく、上から目線の別の形に過ぎない。

その後数日、雪穂は十数社のテクノロジー系スタートアップやベンチャー機関に履歴書を送り続けたが、返事はほとんど届かない。

桐谷真は彼女が受信ボックスを何度も更新する姿を見るたび、水を持ってきて優しく囁く。「やめにしたら?小さな会社では君の才能を活かしきれない」

彼の言う「より良い場所」が何かは明白だ。彼の研究室にずっと空けられた席、彼の視圏内に収められ、専用に設計された人生の軌道のことを。

雪穂は返答せず、履歴書の欠点を分析し続ける。

課題は一目瞭然だ。霊川大学 AI 工学科首席、複数の大型研究課題への参加経験 —— これらの肩書きは業界の人間から見れば、彼女自身の実力証明ではなく、「桐谷真の所有物」「桐谷一族の学術勢力に属する人間」を示す記号に過ぎない。

単独筆頭著者の論文も、自身主導のプロジェクトもない今の彼女は、外部の就職市場では存在しないも同然なのだ。

五日目の午前、応募先の方針を切り替え、規模が小さく、万能型技術者を必要とするスタートアップチームをターゲットに定める。午前十時前、受信ボックスに面接招待メールが届いた。

差出人:オーロラ青年ベンチャーインキュベーター

面接日時:当日午後二時三十分

場所:市中心部 オーロラビル 14 階

雪穂はメールを数秒間眺めた後、スマホ画面を裏返し机に置き、着替えに立ち上がった。

面接開始四十分前にオーロラビルに到着。一階コンビニで水を購入し、ロビーの椅子に二十分間腰掛け、インキュベーターが公開している三つの育成中プロジェクトの技術ロードマップを頭の中で反芻してから階段を上る。

面接担当はポニーテールに格子シャツを着た女性。チーム運営責任者の小林と名乗り、気軽に小林と呼んでほしいと言う。

面接室には折り畳み椅子二脚とホワイトボードだけが設置され、臨時で用意されたような簡素な空間だ。

小林から投げかけられる質問は基礎的な内容ばかり。AI 工学プロジェクトの実装経験、データモデリングの主導経験、インキュベーター事業への理解など。

雪穂は余分な修飾を加えず、穏やかな速度で一つずつ回答する。

小林は聞きながらノートに記録を取り、最後に顔を上げて話す。「あなたの経歴は我々の予想をはるかに上回っています。内部で協議した上、本日中に結果をご連絡いたします」

廊下に出てスマホの時計を確認する —— 午後四時三分。

心の中でこの一歩を確かに刻み込む。歓びはなく、ただ冷徹な確認だけが残る:この道は少なくとも通じている。

ビルを出た瞬間、空は重く垂れ込めていた。

玄関ポーチに十秒も立たないうちに、大粒の雨粒が叩きつけるように降り始め、瞬く間に街全体が雨幕に包まれる。

スマホでタクシー配車アプリを開く。画面がぐるぐる回った末、「周辺に稼働車両なし、待機時間 40 分以上」と表示された。

ポーチの端に佇み、雨が階段を伝って細い水流になる様子を眺め、指が電話帳の一箇所で止まる。

長年染みついた反射だ。困難に見舞われた時、一番最初に思い浮かぶ人。

名前を三秒間凝視した後、指は迷いなく発信ボタンを押した。

通話は予想以上に速く繋がる。

「雪穂?面接終わったの?」桐谷真の声に意外さが混ざり、すぐ柔らかくなる。

「激しい雨が降ってきて、タクシーが呼べません」深く息を吸い、細やかに告げる。

「近くのカフェに入って待っていろ。俺が運転手を向かわせる、三十分以内に着く」口調が瞬時に引き締まる。

「わかりました」短く応じて通話を切る。鞄を頭上に掲げ、雨を踏んで道向かいの暖色照明が灯るカフェへ駆け込む。

店内に飛び込んだ時、自分が電話をかける瞬間、一切の迷いがなかったことに気づく。

この習慣は、自分が思うよりも断ち切りにくいものだ。

カフェ内には豪雨で足止めされた客が七八人座っている。

雪穂は窓際の一人席に着き、アメリカーノを注文し、スマホをテーブルに置く。

三十分が過ぎ、桐谷真にメッセージを送信するも返事なし。

さらに一時間経ち、再度送信しても一向に返信は届かない。外の雨は勢いを緩めず、配車アプリの表記は「利用可能車両なし」に変わっていた。

スマホを裏返し、冷めきったコーヒーをゆっくり啜る。雨に霞む街並みを眺め、何も考えない、あるいは考える余裕すらない状態に身を任せる。

入店して一時間半ほど経った頃、隣席の男性が話しかけてきた。

三十歳前後、スーツに皺が寄り、過剰に馴れ馴れしく油っぽい口調で話す。一人で誰かを待っているのか、自分はちょうど順路なので送ってあげると持ちかける。

雪穂は顔を上げず、「結構です、ありがとうございます」と小声で断る。男性は立ち去らず、椅子を引いて彼女のテーブルに腰を下ろす。周辺の渋滞状況から「学生さん?」へと話題が移り、態度はますます軽薄になり、距離も詰まっていく。

雪穂はスマホを手に取り画面を男性に向け、声を一段抑え、穏やかかつ冷徹に告げる。「待ち合わせ相手を待っています。席にお戻りください」

男性は彼女のスマホに手を伸ばす。「本当に待っているのか見せてみろ ——」

雪穂はスマホを後方に引き、立ち上がる。「私の持ち物に触れないでください」

声は震えていないが、眼底にはすり減り尽くした疲労が漂う。この疲れは今日生まれたものではなく、今日になってようやく隠す力がなくなっただけだ。

バーカウンターの店員が様子をうかがうが、ためらった末、仲裁には来ない。

雪穂は席に戻り、スマホ画面をスクロールさせて通報画面を開き、表向きにテーブルに置く。

雨は降りやまず、桐谷真からの連絡は一向にない。ここに三時間近く待機し続けていた。

その時、カフェの全面ガラス窓の外、地味な黒のビジネスカーがゆっくり道端に停車した。

ドアが開き、陳補佐が傘を差して車脇に立ち、街中の店舗を順に視線でなぞる。

彼の任務は、桐谷淵が後ほど実施するプロジェクト視察の事前確認とし、オーロラベンチャーの責任者が約束場所付近に到着済みか事前に把握することだ。

視線がカフェの看板を過ぎ、ふと窓際の席に落ちる。

ガラス越し、薄色トップスを着た女性が一人席に座り、目の前には半分残ったコーヒーカップ、スマホを表向きに置き、冷めきった疲れた表情を浮かべている。

傍らには男性が身を屈め、何か話しかけている様子だ。

陳補佐はその横顔に二秒間視線を留める。

ゆっくり車内へ身を屈め、車中の人物に小声で報告する。

「桐谷社長、窓際の方…… 宮本様でしょうか?」

車内からすぐに返答は届かない。

雨粒が車の屋根に細やかに絶え間なく叩きつける音だけが響く。

しばらくの沈黙の後、短い一言が響き渡り、静けさを断ち切った。

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